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片岡、V呼ぶ同点弾 地響きのような歓声も、ダイヤモンドを周る片岡の鼓膜は揺らさない。こみ上げる心の高ぶりに、その身を支配されていた。 「歓声? オレも興奮していて、走っているときには分からなかったんや」。 8回裏。起死回生の同点ソロで劇的ドラマの開演を告げた。どん底を見た男にしか打てない1打だった。優勝を決めにいく試合で、スタメン表に片岡の名前は無かった。 「最近、打てなくてイライラしたこともあるけど、昨年1年のことを思えば何てことないからな」。 7回表の守備からついた。1点ビハインドの8回裏先頭で、2番手長谷川と対する。いや、相手は関係なかった。マウンドから投じられる速球を、ただじっと待つだけだった。 「香車はド香車で行こうと決めたんや。オレが強いのは真っすぐ。どんな真っすぐでも打ち返すつもりで振っているんや」。 前進しか許されない将棋の駒に、自分をなぞらえる。カウント1−2からの147 キロ だった。高めに振り負けず、むしろ押し込むように弾き返した。センターバックスクリーンの右。着地点の観客から起きた歓喜の波は、すぐにマンモス全体を包み込んだ。その中心を、1人で走る幸せ。もがき苦しんだ分、感慨もひと1倍だった。 「今年1年の思いを込めて、ひと振りにかけた。こういうゲームで打ててうれしい」。 FA移籍した昨季、阪神ファンの期待を一身に背負った。2割2分8厘、11本塁打。言い訳のできない不振だった。新婚の家庭に戻っても、鬼気迫る顔でバットを振った。好きな酒を遠ざけ、緑茶ばかりを口にした時期もあった。それでも成績が出なければバ声を浴びるまで。1年後のファンから大歓声を受けても「昨年のことがあるからな」と気は緩まなかった。 9回1死一塁からも一、二塁間を破ってサヨナラにつなげた。飢えた野獣のように、プロ12年目の初優勝をつかみに行った。「きょうは酒を浴びるで」。何もかもを忘れられる時が、ようやく訪れた。【町田達彦】
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