福井のファンに見せた底力
4併殺は勝負のアヤ
福井県営球場は超満員の2万2000人で埋まった。中日との首位攻防戦はグラウンド状態不良で1時間12分遅れでプレーボール。幾分間延びしたものの、最後の最後まで緊迫したゲームを、記者席で本紙評論家の一枝修平さんと中西清起さんと並んで観戦した。
「ここでバースがホームラン打ったとき、スタンドからベンチ前にファンの人が落ちてきましたね」と中西さん。一枝さんもよく覚えていて「ああ、優勝した年(1985年)やったなあ」と笑いながらポツリ。福井には結構阪神ファンが多く、この日もスタンドの左方向は全てタイガース・カラーが占めていた。
「天王山とはやし立てるのは世間だけ。実際はまだこれからという段階だ。ただ、阪神にしてみれば、上向きの緊張感を持ちながら大きなゲームに臨むのは、開幕の巨人戦以来と言っていい。つまり、こんな試合で阪神の選手の成長の度合いが計られると思う」と一枝さんはいう。
明大から中日入団。中日では現役8年、コーチを延べ5年した。阪神では現役1年、コーチは3度にわたって計8年務めている。両チームに深い関わり合いを持つ人だけに、いささか複雑な心情でこの首位攻防戦を見守った。
9回を除く毎回安打を放った阪神だったが、この日は後続が続かない。6回から9回まで4回連続併殺を喫した。その8回の2死後だった。「山本の出来は決して良くない。今の阪神ならここからでも反発する可能性があるぞ」と一枝さんが言った直後、和田が三塁打、新庄が中越えに同点二塁打を飛ばしたのだ。瞬く間の同点劇。阪神に新たに備わりつつある底力を示す攻めだった。
もっとも8回までに10本の安打(しかも三塁打1本、二塁打が3本)で1点だけは、いかにも効率が悪かった。その“あおり”が9回裏に出てしまった。切り札の福原が1死満塁から中村にサヨナラ安打を浴びて無念の敗戦。「中村に対してもう少し低めならショートの正面に飛んだかもしれない。しかしそれは勝負のアヤというものだ。4併殺をする出来の悪い試合だったが、阪神は互角に戦えた。負けてなお今後に期待を抱かせる試合だったと思う」と一枝さん。
首位奪取は逃した。だからスタンドからファンが転がり落ちる熱狂は見られなかったが、北陸シリーズ第1戦は、変わりつつある阪神の姿を福井のファンには見せることができた。
|