走ること面白がる選手たち
口元ゆるめる福本コーチ
プロ入り初先発の井川が、マウンドで苦しみながらもけなげに投げている。ネット裏の記者席では、真後ろにかつての豪腕・江夏豊さんが座っていた。「5回を投げ抜くことや。ヤマ場は5回と7回やな…」と、井川に温かな眼差しを送っている。
同じ阪神のユニホームを着る高校卒業2年目の初々しい左腕。背番号も1番違いの29番だ。自然な思い入れがあって当然かもしれない。江夏さんは高校を出た年の4月28日にプロ入り初白星を記録している。「あのときも広島戦やった。2―1。完投やった」と思い出話。
江夏さんの言葉通り、勝利投手の権利を得る5回には先頭野村にヒットを浴びたが、江藤をまるで魔球のようなチェンジアップで三振に仕留めるなどして切り抜ける。そして、次のヤマ場となる7回だった。
四球と2本の安打で無死満塁としてしまう。得点は5―0。完全な安全圏とは言えるかどうか微妙な局面。野村監督は打者が左の前田だったが、あえて井川をマウンドから降ろし、同じ左腕の遠山を救援に送り込んだ。そこから始まった遠山―伊藤―遠山の投手リレー(伊藤が投げた時、遠山を一塁に起用)が、ものの見事に決まって井川の初勝利がほぼ確定したのだった。
継投を含めた用兵、さらに立ち上がりからの攻め口は理想的な試合だった。和田、ジョンソンの本塁打から始まって3回には新庄、ブロワーズがタイムリー。5回にも新庄が1点をたたき出し、9回には一挙5点をもぎ取った。
そんな中で打って大活躍の新庄が盗塁を2つも決めたのだ。いずれも適時打を放った直後の二盗で、1試合で昨季の倍の盗塁数としたのだ。野村監督に「新庄は走塁に興味を持たない」と酷評されてきた男のアッパレな晴れ姿。「サイン? まあ行けたら行けと…。5回の2つ目は(スタートも)良かった。試合で実際に走ることで、盗塁の術を会得すればいい。課題は色々とあるけど、新庄をはじめみんなが走ることを面白がってきたからうれしいよ」。世界の盗塁王・福本コーチも口元をゆるめた。
ローテーションの谷間で、江夏豊さんの思い入れを受けた井川という新鋭投手が咲き誇り、新庄が新しい姿を示した1勝。ついに中日に1ゲーム差と迫った。阪神の快進撃はもはや筋金入り…と言ってもだれも笑えはしまい。
|