田中の笑顔に希望
「3年間で再建」カギ握る若トラ
喜びの輪は何と二、三塁間にできた。延長10回裏、サヨナラ打を左中間に放った田中は、もはや勝負が決まっているのに、一塁はもちろん二塁まで回っていた。突拍子もない喜びの輪の位置に、田中の必死さが表れていた。サヨナラのホームを踏んだ矢野が、田中に向かって突進する。ベンチからナインが飛び出していく。もみくちゃになりながら、笑顔を浮かべる田中の姿が初々しかった。
5万5000人で埋まった甲子園で、野村阪神は赤っ恥をかく戦いをしてしまうところだった。「ここ(甲子園)のデーゲームは球が見えにくいからイヤだ」と前日の試合後に言っていた野村監督は、この日の試合前もボヤいていた。「夜は3時に寝るのに、デーゲームだと8時に起きなアカン」と、何度かアクビをかみ殺した。
寝ぼけ眼のサイ配だったのだろうか。5回から中込に代えて2番手で井川を使い、その井川がストライクが入らない大乱調。打者金本を迎えた時点で1度八木沢コーチがマウンドに行っているのに、0―2となったところで、辛抱たまらず投手交代を告げ、それが認められずに混乱する一幕もあった。「血が逆流してもてな。オレもヘボだな」。
1―6の5回裏にジョンソンの3ランなどで1点差。6回には新庄が勝ち越しの2ランを打って、試合がエキサイティングになってからは、野村監督の目も覚めたようであった。落ち着いた用兵が、最後の劇的なサヨナラ勝ちにつながって行った。
中堅選手や外国人選手が目覚ましい活躍をしているのに、この日の若手たちは精彩を欠いた。井川はもちろん、6回の代打から登場した浜中も2打席連続三振。特に8回の無死一塁では、1―2からエンドランを仕掛ける取って置きの手を使ったのだが、それをファウル。次の球を3バント失敗して、10回には代打(大豊)を送られている。この上、田中までが働けなかったら、若トラたちの立場がなくなるところだったのだ。
3年という一応の期間を考えつつ強化をもくろむ野村阪神にあって、若トラたちはその中心的な存在である。彼らの成長が、その計画の成否のカギといっても構わないだろう。初めてのお立ち台に立った田中の笑顔は、阪神の明日に希望を抱かせてくれる輝きがあった。
|