星野阪神を追う「虎劇場」

  阪神 4―3 巨人 (7月24日・甲子園)

希望膨らませる新戦力の台頭

星野阪神を追う「虎劇場」

 70年代の初めだったか。甲子園球場にやってくるビジターチームは、高校野球同様、一塁側ダッグアウト横の通路からグラウンドに入り、バックネット沿いに歩いてベンチ入りしていた。ちょうど阪神の打撃練習が佳境に入る時間で、打撃ケージの周辺は和やかな交流の場になった。

 中でも印象的だったのは巨人戦だ。王、長嶋を先頭に乗り込んでくる集団の威圧感は、とびきり。駆け出し記者の目に映るONや堀内、高田、柴田らはヤケに大きく見え、洗練されたユニホーム姿は常勝軍団の貫禄をふりまいていて、阪神担当を不安な気持ちにさせたものだ。長嶋はケージの後ろに立って、練習中の田淵らに「おっ、調子よさそうだな」などと人懐っこく声をかける。呉越入り乱れるこの一瞬は、やがて始まる決戦の味のあるプロローグだったような気がする。

 このカードの阪神はいつも燃えた。ONを抑えるためには針の穴に糸を通すほどの制球力が要求される対決だっただけに、ストライク、ボールの判定にもエキサイトするシーンが再三。審判の神経も磨り減る戦いと言えた。江夏が小林と0―0で投げ合った試合。つまりながら一塁後方にサヨナラ打を放った田淵が、ベンチから走り出た江夏と抱き合った歓喜のシーンが鮮明に脳裏に残っている。貴公子然とした若き日の田淵の珍しいアクションだったせいだろう。

 「そんなことあったかなぁ。ホームランのことは覚えてるけど、サヨナラのことまではね。ただ巨人戦は力が入ったし、そりゃあうれしかったんだろうな」。

 時は移って、巨人への対抗心は、星野監督によって新しい時代へと入った。プロ野球の繁栄は巨人を倒す阪神によってこそ、と自負する指揮官。それだけにゲーム差を3つ縮める計算が崩れた緒戦の黒星はこたえた。この日はリズムを変えるためか、試合前はベンチに座って練習を見つめた。出よ、ヒーロー。静かな眼差しは、そう語っていた。

 予期せぬアクシデントが阪神にふりかかる。背水の先発・藪が2回に倒れ、直後に桧山が傷つく。スタンドまでが青ざめる展開だ。しかし逆境は猛虎魂を呼び起こした。指揮官以下祈り一丸のナインが原巨人を追い詰める。緊急登板の若い吉野、藤田の力投。そして9回には歓喜のドラマが待っていた。曇りのち快晴―。伝統の一戦は、やはり阪神ファンを酔いしれさせた。そして「もう行くしかない」という星野監督の試合後のひとこと。ペナント戦線に何かがおこりそうな雰囲気が漂い始めている。

【達野昭司】


2002年7月25日付紙面掲載


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