星野阪神を追う「虎劇場」

  阪神 4―7 横浜 (6月28日・大阪D)

この苦しみ…きっと幸運な日々が待っている

星野阪神を追う「虎劇場」

 幕切れは三者三振だった。横浜に打ちのめされて8連敗。6月は3勝13敗となった。この急ブレーキを星野監督は「誤算も誤算、大誤算」と嘆いていたが、星勘定以外にも誤算が頻出したゲームだった。2番に入った矢野の3三振、鈴木尚が登録抹消になって弱体化したはずの横浜打線に3本塁打を浴びたり押し出し四球を与えた谷中…。随所で細かいミスが重なる試合は、貧すれば鈍するを地で行く敗戦だった。

 連敗地獄をさまよう空しい試合だったからだろうか。不意に画家のミレーの人生を思い出した。「落ち穂拾い」や「種蒔く人」など素朴な画風の絵は、おそらくだれでも1度位は目にしたことがあるだろう。あの落ち着いた色調の画家は若い時分からせっせと絵を描いたが、さっぱり売れなかった。50歳を過ぎるまでは極貧。彼の最初の妻の死因は何と餓死だったという。絵の技術は確かでも、彼が描く農民が働く姿など、当時は題材として極めて不適切であった。ともあれ19世紀末の万国博覧会に出品して認められるまで、彼は満足に食べることもできなかった。

 ミレーを支えていたのは、果たして何だったのか。どんなに批判され罵倒され無視されても、農民の姿が芸術に昇華し得る題材だと信じた思いの強さだったろうか。もし彼が貧しさに耐えかねて、美しい景色とか女性ばかりを描く画家に転向していれば、妻は餓死しなかったかもしれないが、おそらく名声を得ることもできなかった。

 敗れたとはいえ、阪神はまだ貯金がある身だ。餓死に至るほどに貧しいわけではない。「好調時の持続は不調時をどう生きたかで決まる」と前監督はよく言っていた。やがて確実にやって来る幸運な日々のために、多分「今」の最悪の毎日があるのだ。4年連続最下位と沈み込んだ阪神を再建するために「前向きな姿勢」を大切にする星野監督のチーム作りの方針は多分的を射ているし、選手たちの勝利への思いの強さも感じ取れる。いつかは良い夢がきっと見られる…。

 阪神再建は、ミレーが描き続けた農民の絵…そう思うのは、非常事態の今あまりにも楽観的過ぎるだろうか。

【井関 真】


2002年6月29日付紙面掲載


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