阪神 3―4 巨人 (6月16日・甲子園) | ||||
高橋留美子さん虎優先の日々
試合開始から5時間10分前の午後0時50分、4000枚の当日券が売り切れ。前日をさらに短縮して完売のスピード記録になった。ブラウン管はW杯の映像に占拠されているが、プロ野球、いや阪神への熱気は微動だにしていない。そういえば甲子園駅の売店で、阪神を1面に掲載した新聞が、これまた正午過ぎには完売していた。 午後3時の開門。阪神の練習開始直後から「ファイト!」の歓声が外野席に巻き起こって、ウオームアップ中のナインの背中を押す。「発売の5時間前から並んでるんだってね。ありがたいことだよ」と言う星野監督。この日は外野の芝生をゆっくり歩きながら手を振って声援に応えた。ファンに応えるのは白星が一番だが、それが思い通りにいかない。歯がゆい指揮官の精いっぱいの気持ちだった。 そんな阪神ベンチに可愛いヒットメーカーのお客さん。1973年以来の熱烈虎党という漫画家・高橋留美子さんだ。アニメファンにとっては神様に近い存在だろう。「うる星やつら」「めぞん一刻」などの作品はいずれも映画化されて話題を集めた。春に発表された高額納税者番付では2億5000万円を超えて上位ランクされていた。 「週刊少年サンデー」連載中の冒険ファンタジー「犬夜叉」も日本テレビ系で放映され高い視聴率を得ており、関係者の計らいで初めての甲子園観戦が実現した。「絶対に優勝してくださいね」と熱い目を向ける高橋さん。星野監督もしっかりとうなづいていた。 73年といえば、阪神、巨人のシ列なV争いが終盤までもつれ込んだ年。残り2試合で1勝すれば優勝という有利な条件の阪神は、名古屋で中日戦に臨む。相手先発は星野。ポンポンとストライクを投げ込むエースの温情にも阪神金縛り打線は凡打の山を築いたという話は今も語り草になっている。そして最終戦の直接対決も惨敗。巨人はV9を達成し、阪神は涙にくれるのだが、少女時代の高橋さんにとってもまた忘れられない出来事だったという。 「あれからですね。なぜか好きなんです、このチーム。今は星野監督の笑顔と浜中さんの姿にしびれています。漫画を描くのはナイターが終わってから。タイガース優先の毎日かな」 29年の歳月を経て、首位攻防戦に阪神、巨人がまみえる。星野は阪神の指揮官として、高橋さんは人気作家として。心は前夜の雪辱に重なった。しかし土壇場に追いつく猛追劇もついに実らなかった。試合後もなかなか腰を上げられない高橋さん。それでも「今の阪神なら大丈夫」と自分に言い聞かせるようにつぶやいて、やっと立ち上がった。 【達野昭司】
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2002年6月17日付紙面掲載
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