阪神 10―2 広島 (9月3日・広島) 

藤田に先越されても明るい球児

グイッと搾りたてコラム「ナマ虎」

「次はボクですから」

 この日は「あがり」だった。試合前の練習を終えると、広島の宿舎に引き揚げた。自室でテレビのスイッチを入れた。そこには藤田太陽が映っていた。

 藤川球児は、画面を見つめた。スピードはあまり乗っていないけど、ボール球をうまく使う「太陽さん」がいた。味方打線が早々と援護し、中盤には勝ちを決定付ける大量点。これで決まった藤田のプロ初勝利。「よかったですよ。でも先を越された、という気持ちもありますけど」。藤川は明るくこう言った。

 いくらいいピッチングをしても勝てない藤川には、うらやましい展開だっただろう。しかしそんなことは、ひと言も口にしなかった。「やはり逃げたらあきませんね。太陽さんは打者に向かっていっていたし、気持ちで攻めていましたから」。ライバルの初勝利を見届け、そこから勉強もした。

 藤田が1歳上のこの2人。普段から仲がいい。プライベートでも一緒にすごす時も多い2人の最近の話はこうだ。「お互い、まだプロ1勝してないんだ。とにかく勝とう」。チャンスは藤川のほうがはるかに多かった。いつも中盤まで好投しながら、越せない山があった。

 それを簡単に藤田の方が越えてしまった。「太陽さんは1歳上で、ボクのこともよく気にしてくれてます。でも先は越されたけど、次はボクが並んで、追い越します」藤川には嫉妬もない。そんな前向きな心が、受話器から響いてきた。

 チーム内にライバルがいることは、絶対に必要だ。相手がうまくいけば、クソッと思うくらいでないと、2人は伸びていかない。ただし、相手のよさを素直に受け止め、参考にするのもライバル関係のよさだ。

 ライバルと呼ぶには、実績のない2人だが、少なくとも来季に向けての2本の光が生まれたのは間違いない。「次はボクですから」。最後をこう締めて、受話器を置いた藤川。こんな勢いが出てきたのが、なんとも新鮮だった。

【編集委員・内匠宏幸(たくみ・ひろゆき)】


2002年9月4日付紙面掲載


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