星野阪神の挑戦

    阪神 1―0 横浜 (4月14日・甲子園)
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“2番手”に腐らず準備した吉本

努力を見逃さない星野監督

 新人安藤の見事な投球が、虎の暗いムードを吹き飛ばした。わずか6時間ほど前まで、阪神ベンチは矢野の戦列離脱で危機感いっぱいだった。開幕から投手陣を好リードで支え、打率も3割7分と絶好調。扇のかなめのリタイアに首脳陣も頭を抱えていた。しかし、そんなアクシデントを星野阪神はあっさり乗り越えた。

 矢野が元気なら、おそらく吉本が先発する機会は当分巡ってこなかったに違いない。内外野の控え以上に2番手捕手の立場はつらい。特に捕手2人制は、試合中の負傷退場に備えてのスペア的な要素が強くなる。それもチームには大事な役どころ。ただ突発を想定して万全の備えができる2番手捕手は、相当の忍耐力と精神力が必要だ。

 実は星野阪神の本当の強さは、この日の吉本に凝縮されている。甲子園初先発となる新人安藤の持ち味を引き出し、横浜打線に付け入るスキを与えなかった。矢野に勝るとも劣らない好リード。その秘密を三宅チーフスコアラーが話してくれた。「出番はなくとも、彼は毎試合終わった後に必ずビデオを見て研究してたよ。だから今日も違和感なくリードができたんと違うかな。監督はそういう姿を見ていたから使ったと思うよ」。広島−近鉄−広島−阪神と渡り歩いた32歳の苦労人は2番手であることに腐らず、その時に備えていたのだ。

 安芸キャンプ。吉本の朝のスピーチに周囲はしんみりした。「プロ10年目で33歳になります。家族も1人増え、上の子供が父親が野球選手だと分かる年齢になりました。尊敬される父親にならなければいけません。そして最後に自分をほめられるシーズンにしたいと思います」。妻子を持つ身なら、吉本の悲壮な決意は痛いほど分かる。家族のため、自分のため、いつ巡ってくるか分からないチャンスをじっと待っていた。それを星野監督は見逃さなかった。

 この日、宝塚市の自宅では長男の大希くん(6)がテレビで応援していた。今年4月、新1年生になったばかり。「テレビで見ると怖い顔をしてるんですが、家では本当にいいパパなんです」(和代夫人)。この日、吉本は尊敬される父親に少し近づいただろうか。

 帽子に「39」と書き込んでプレーしてくれたナインの姿に、自宅で静養中の矢野はテレビの前で泣いていた。その代役を務めた吉本は試合後、報道陣に囲まれて、こらえていた涙があふれ出た。いつから阪神はこんなに泣き虫が増えたのだろう。こんなチームが簡単に連敗するはずがない。

【阪神担当キャップ=木崎輝三】

星野阪神の挑戦

2002年4月15日付紙面掲載 


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