監督が「あんちゃん」と呼ぶ謎の人物

星野の挑戦in安芸

「広報部課長・高木時夫」の役割とは

 19日と20日の2回に分けて、安芸キャンプのミステリーをお届けする。「謎の時さん物語」である。キャンプも後半に入ったが、選手や報道陣の間で「あの人は一体何者なのか。監督とは一体、どういう関係の人なのか」とずっとささやかれている謎の人物がいる。それが高木時夫さんである。

 タイガースキャップとウインドブレーカーを着た、髪の白い60歳前後のフロントマン。背すじをいつもピンと伸ばして、グラウンドやネット裏をきびきびと動き回っている。何となくシニカルな顔で、そうロック歌手で俳優の尾藤イサオを長身にして老けさせてしまったような感じだ。

 時々ガムをくちゃくちゃかんで、足早に歩いているようなようすを見ると、球団のフロントマンというよりは引退したばかりのミュージシャン、というような印象もあるスマートな人だ。

 ネット裏本部席で配られるキャンプ参加メンバー表で調べると「広報部課長・高木時夫(64)」とあるから謎の人物でもなんでもないのだが、その動きを追っていると、なにを本職にしているのかが、まずわからない。

 広報担当のようでもあり、マネジャー風でもあり、時折コーチや選手に助言めいた話もしたり、そしてよく球界関係者やスカウト陣に囲まれて、長時間“密談”をかわしていたりと正体がわからないのである。

 ある日の夕食会で、ホテルの大宴会場にチーム全員がそろった時、時さんひとりが遅れてドアからそっと入ってきた。さてどこに座ろうかと時さんがフロアを見回していると、幹部の座る最上席のテーブルから「オーイ、時さん。こっちこっち」と大きな声で手招きしたのが監督だ。

 田淵、島野、監督の星野と並び、その野崎球団社長との席に招かれて、そこへ腰をおろしたのが時さんだから、選手たちは一斉に不思議そうな顔をした。「一体あの人はなに者なのか」常駐記者の間からそんな声が出るのである。

 日に何度となく、監督の口から出るのは「オイ、時さんを呼べ」だ。グラウンドでの休憩タイムや食事時間に客が来ると、あるいはホテルの監督室やロビー、食事処に客があると、決まって「オイ、時さんを呼べ」だ。

 監督付きの2人の専任広報がいても少し大事なゲストや、昔からの長い付き合いのゲストが来ると、監督が同席を命じたり、空港への送迎を頼んだりするのはおおむね、この時さんなのである。時さんが忍者にも見えてきたりする。付かず離れず、常にどこか監督の影のようにして寄り添っているこの時さんのことを、陰で監督が時々「あんちゃん」と呼んでいるというので、謎はいよいよ深まっていく。時さんは監督の兄さんなのか。時さんと星野とは、本当は兄弟だったのか。

 そういえば昨年末、スカウトをして定年退職の予定だった時さんを「私の恩人ですから」と球団側に頼み込んで、第三の広報遊軍として残したのは監督自身だったともいう。兄なのか、恩人なのか。そしてその真の役割は――。キャンプとともに、この謎も深まっていく。(つづく)

 三浦勝男 1939年(昭14年)、神奈川県生まれ。明大卒。62年、日刊スポーツ新聞社入社。巨人、中日担当、野球部長、編集局長、役員などを経て、現日刊スポーツ新聞社顧問。現在は多方面で執筆活動中。星野監督とは中日入団以来、33年間の交友。



2002年2月19日付紙面掲載 


[星野の挑戦 in 安芸 目次]
阪神 | 野球 | サッカー | スポーツ | 競馬 | 芸能 | 社会 | レジャー
Home