闘志の野球は“大声野球”

星野の挑戦in安芸

グラウンドではまず声で負けるな

 プレスカードを胸に下げてスタンドに座っていると、時々近くの見物人から声をかけられる。今日は白い阪神の野球帽に茶の半コート、黒いパンツにウオーキングシューズを履いたおばちゃんだ。神戸で飲食店をやっている、ころっころした吉田治子さん(53)=仮名=。愛虎会の女性メンバー2人と一緒にフェリーできたらしい。

 治子 ねえねえ、マイク持ってるあの島野っていう人。なんであんなにしょっちゅう「声出せ、声出せ、腹から声出せ」ってうるさく言ってるの? ノックして守備の練習中、なんでみんなに「声が小さい。大きな声で。体の底から声を出せ。腹から、腹から、もっと腹から」って、あんなに言うのかしら。お経の文句みたいじゃない。

  「心身の鍛練は大声から」って、あれは星野さんの野球百ケ条の第1項なんじゃないの。中日時代から「グラウンドに立ったら、ベンチに入ったら、まず、“声で負けるな”」って言うんだからねえ。

 治子 ウチ(阪神)の選手、みんなおとなしいからもっと声出して「元気出せ、元気出せ」っていうこと?

  ウン、それもあるけど、星野さんって昔から「声を出すのも野球のプレー」って考えている人だからねえ。

 治子 なんで「声がプレー」なのかなァ。黙ってても、ちゃんとやれればいいじゃないの。

  野球は広い屋外でやる団体競技でしょ? お互いの叱咤激励、合図や意志伝達の確認やら、大声を出し合わないといけないスポーツでしょ? それに小さい声じゃヤジにもならん。ゲーム中、時々大声を出し合ってたら、ぼんやりした凡プレーも起きないもんなんですよ。

 治子 フーン。私、野球したことないからわからん。

  「ユニホームを着て、でかい声出さんヤツはウチの選手じゃねえ」って。あの人、選手時代、ONに投げる時は1球1球、ヤアッ ! って叫んで投げてたよ。

 治子 へえー。大声出せば、勇気も闘志も湧いてくる。チームにも「闘志の連鎖反応」が起きるっていうこと?

  そうだね。大リーグの監督たちもそう言ってるんだよ。

 治子 へえー。私、大リーグの監督だ(笑い)。

  そう、あなたはもう“女星野”だよ。

 治子 うひゃあ。

  チャンスに自信なさそうなバッターに、ささやくように励ましたってアキマへン。気をよけい小さくさせて、むしろ逆効果でしょう。大声で一発、バシッと気合を入れてやる。そしたらもう、自信がなくても夢中でボールに食らいついていって、ヒットを打っちゃうなんてこともあるんだよねぇ、よく。

 治子 そうか、闘志の野球は大声野球なんだ。……そういえば甲子園の高校球児の選手宣誓って、みんなすっごい声だもんねぇ。大声出さなきゃウソなんだ。

  なんか、あなたも声が大きそうだねぇ、昼も夜も。

 治子 アラっ、イヤだ、この人ったら。なに言ってんのよぉ、もぉ。

 三浦勝男 1939年(昭14年)、神奈川県生まれ。明大卒。62年、日刊スポーツ新聞社入社。巨人、中日担当、野球部長、編集局長、役員などを経て、現日刊スポーツ新聞社顧問。現在は多方面で執筆活動中。星野監督とは中日入団以来、33年間の交友。



2002年2月18日付紙面掲載 


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