細やかに気を使う「爺いキラー」

星野の挑戦in安芸

明大・島岡さんに叩き込まれた!?

 球界の裏側では巨人キラーではなく、星野はよく「爺いキラー」といわれるのだが、それは安芸でのキャンプ生活を見ていてもなんとなくわかる。もともと人の好き嫌いを言わず、誰にでもいい顔の作れる男だが、とりわけて自分より年長の先輩OBや評論家、マスコミ、球界関係者にはよく気を使うし、それも細やかだ。グラウンドでも年配の古い記者たちを見つけると、原則「立ち入り禁止」の選手食堂へ招き入れ、熱いコーヒーやうどんを勧めたりしているらしい。

 「若い者は気を使え。先輩や年寄りには気を使え」が星野の口ぐせのひとつだが、宿舎のロビーなどでサインの求めに応じるのも熟年、年配者のファンが優先で老齢化社会の味方、なんて頼もしい監督さんだ。どんな世界の人でもトップクラスともなると、人に対しての神経が鋭敏で細やかなものだし、球界では王や長嶋もそうなのだが星野もこの点で人後に落ちない。

 水原茂さんや川上哲治さん、中日元オーナーの加藤巳一郎さんといった球界のお偉方だけでなく、たとえばトヨタの奥田碩会長や天野製薬の天野源博社長、大京観光の横山修二社長ら、政財界のいろいろな実力者や長老にかわいがられてきたところから、やっかみ半分で星野には「爺いキラー」の異名がついて、人脈の広さと情報通でも有名なのだが、当の星野自身には屈託がない。

 「父親がいなかったファーザーコンプレックスで平気で甘えられるせいなのか。あるいはゴマすり上手って思われちゃうんだけれど、それはもしかするとすべて、明治の野球部であの鬼の島岡さんの付き人兼運転手役のキャプテン時代に仕込まれ、たたき込まれた“研修”のたまもの、習性のたまものなんだと思うんだわ」

 島岡監督にぴったりと付いていればチームメート以外はみんな見上げる大人だし、来客や接する人もみんな、大先輩や各界各層の年長者の方々だ。

 車でくれば駆け寄ってドアを開ける。入り口ではスリッパをそろえてさっと出す。荷物があればそれを持つ。テーブルにつけばイスを引いて、さあ、どうぞ。タバコを手にすればライターをつけて差し出す。上着を脱げばさっと受け取りハンガーに。また着る時には袖を通しやすいように背後から、そっと肩からかけて――。これを今も、時にはやっているらしい。

 「今どき、こんな教育するところってある? おれの20歳の時代までのことで、世間知らずの田舎もんのおれだから必死にやってて、しっかり身に付いちゃったんだよねえ」。今、年輩の人たちとゴルフをやっていても、先にパットを終えた人にできるだけピンを持たせないように気を配り、いつも心掛けているのは自分なんだ、といって星野は笑う。

 「いや、あいつはきかん気で平気で人と摩擦を起こすが、自分がいかんとわかりゃ土下座しても謝りよる。やんちゃで困るが、ずるさがねえでいいんだわ。人の名前や肩書にひるまんし、恐れんし、平気で懐に入ってきよる。名古屋で少ねえ人気者だしよ」生前の加藤巳一郎さんから、ある年の新聞大会の懇親パーティーで聞いた時の話だ。

 加藤元オーナーともうるさい爺いの彦左衛門と一心太助のような関係だったのだろうか。それなら「爺いキラー」といってもこれは本物だ。(敬称略)

 三浦勝男 1939年(昭14年)、神奈川県生まれ。明大卒。62年、日刊スポーツ新聞社入社。巨人、中日担当、野球部長、編集局長、役員などを経て、現日刊スポーツ新聞社顧問。現在は多方面で執筆活動中。星野監督とは中日入団以来、33年間の交友。



2002年2月15日付紙面掲載 


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