1枚のコピーにこみ上げた怒り

星野の挑戦in安芸

 強い者、持てるものはとかく秘密主義になり、弱いものや貧しい者はどこか開けっ広げだ。プロ野球の実戦訓練、殊にスクイズ、バントシフト、挟殺、ランダンプレーの練習に対する考え方を見ていると、そうした習性といったものを感じてしまう。

 チャンピオンチームだとキャンプ中でも複雑なサインプレーの練習となると、人けのないサブグラウンドや室内練習場などで、こっそりとやりたいものだ。細かなサインプレーの確認、連係、徹底は マル秘 事項なのだから見られたくないわけだ。ビリばっかりの阪神は後者の弱い者、貧しい者の方に属しているチームなのだから、とても秘密主義なんてとってはいられないだろう。安芸の阪神も実戦訓練を毎日、白日の下でやっている。

 戦略における攻防−−サインプレーで浮沈の決まる戦術に関しては、見破るもガードを固めるもお手のもののような島野ヘッドコーチがいるのだから、少しも恐れていないのだろうが白日の下、衆目の中でこうした実戦訓練、紅白戦を続けていくほうが今の阪神には適切だ、という考え方が首脳陣にはあった。

 バントひとつ、そのバント処理ひとつ、挟殺プレー、けん制やカバーリング、中継プレーひとつとっても的確なプレーができなかったり、サインを見落としたり、呼吸を合わせられずに無様なところをみせたりすれば、恥をかくのはプレーヤー、選手たちだ。

 「当初、サインプレーはやはりドームの室内練習場という意見も強かったんだが、それは出来上がっているチームのやり方だろう。全体がぴしっと的確にプレーし、動けるチームになるまでは観客も記者も評論家も、よその偵察隊が見ている前でもやるさ。本番そのままの練習なのだから、選手の実力と評価が誰の目にもわかる。実戦並みの緊張感をもってやらせるにはやはり堂々、本球場でやったほうがいいんだ」

 星野でなくてもそう考えるに違いないし、阪神はシートノック、シートバッティングの段階からこの日から紅白戦という試合形式の実戦訓練に進んでいったのだが、このチーム全体の動きやキャンプ方式にかかわる事態が、平気な顔でひょいと出てきたから星野が怒った。

 フロントから現場の責任者に下りてきたB5のコピー1枚。それは大阪のテレビ局からの紅白戦日程の記載と、今年もその日程での紅白戦を中継させていただきますのでよろしく、というあいさつ文である。「現場に相談もなく、だれがこうした日程を決めるのか。テレビ局が決めとるのか」。

 「いえいえ、これは毎年恒例なんですよ、Yテレビさんとウチとで、この日あたりに紅白戦の放映をと」と今までの恒例、決まりごとと聞いて星野が怒った。選手の調整具合、コンディションもある。天候次第では紅白戦を取りやめることだってある。なぜ事前に現場の考え、方針、判断を求めようとしないのか。

 16日の紅白戦は日程に折りこみ済みだし、テレビ中継も球団としてはもう決定済みだ。星野が「球団・フロント・現場が三位一体にならんと強くならんよ」という理由はこうしたところからも発しているようだ。(敬称略)

 三浦勝男 1939年(昭14年)、神奈川県生まれ。明大卒。62年、日刊スポーツ新聞社入社。巨人、中日担当、野球部長、編集局長、役員などを経て、現日刊スポーツ新聞社顧問。現在は多方面で執筆活動中。星野監督とは中日入団以来、33年間の交友。



2002年2月12日付紙面掲載 


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