“平凡”を大切にする星野の心ばえ

星野の挑戦in安芸

 電話で何度か話はしたが、星野と会うのは半年ぶりだ。安芸の宿舎の喫茶室。高知にきたのは学生時代、友人と足摺岬に磯釣りにきた時以来だという。「いいポイントに当たったんだ。あの時はもう入れ食いで、カツオの一本釣りみたいにして十何匹もイシダイが釣れたんだ」

 そのあと、土佐の高知のハリマヤバシでぼんさん、かんざし買うを見た……と「南国土佐を後にして」の一節を口ずさんで笑った。キャンプ前日。さすがにテンションが上がっているようだが、きょうはこの久しぶりの面談の席で出た星野らしい話を2、3書いておこう。

虎の監督としてのCM話に断り

 ひとつは阪神の監督になった途端、いくつか飛び込んできたCMを全部断ったという話だ。「何も始まらん前に、ただヨイショされてるだけの監督がチャラチャラCMに出てどうするの? さあ、これから野球ひとすじという時に、選手やコーチにはもちろん、世間の人たちに対してもみっともないものね」

 ここ数日、いくつかこなしてきた講演がいずれも大学やアマチュア野球の関係者を対象にしたものばかりだったように、CM出演も予備校やボランティア活動のような公益性のあるもの以外は一切引き受けないつもりのようだ。

 19年前、現役を辞めて星野が日刊スポーツとNHKの解説者になった時、毎月何十件とくる講演依頼を次々と断っていたことがある。「1件50万として20件で1000万。おれ、月に1000万円の仕事を断っているのかと思うとぞっとする」といっていたのだが、これも人気者としては珍しいことに、解説者1年生の立場だからと一切わがままをいわず、ニッカンとNHK合作の過密スケジュールに100%応じようとした結果だった。

 もうひとつの話は開幕までに、今のホテル住まいをやめて甲子園に近い賃貸マンションに移ろうというプランだ。球団が用意してくれた大阪市内のホテルのスイートルームは1泊8万円の豪華な部屋で、眺望もよく、24時間完全サービスで快適なのだが、キャンプが近づくにつれ気が変わったらしい。

 「宿泊代を換算すると1カ月でいくらになると思う? 今は掃除、洗濯、食事付きのVIP用マンションが月50万くらいで借りられるんだ。経済的にもその方がずっといい」という考え方にもよるのだが、実際にはもっと別な本当の理由があった。「阪神の監督が大阪でホテル暮らしじゃ、みんなにしょせん腰かけと思われてしまうんじゃないか」

 それは客観性をふまえて、当たり前の考え方で当たり前のことをやっていこうという、平凡だが大切な星野の心の姿だろう。基準をなくし猥雑化したニュースばかりが続く中、星野の話が少しすがすがしく聞こえたりもする。喫茶室では白いトレーニングウエア姿だったが、2月1日から星野はタテじまのユニホームを着てグラウンドに立つ。これからどんな心ばえを見せてくれるのだろうか。(敬称略)

 三浦勝男 1939年(昭14年)、神奈川県生まれ。明大卒。62年、日刊スポーツ新聞社入社。巨人、中日担当、野球部長、編集局長、役員などを経て、現日刊スポーツ新聞社顧問。現在は多方面で執筆活動中。星野監督とは中日入団以来、33年間の交友。



2002年2月1日付紙面掲載 


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