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悩み尽きない「自分の功」隠す男

星野の挑戦

不振アリアス休ませるか否か

 開幕前には田淵が悩んだ。4番アリアスの不振は打撃担当コーチとしては深刻な問題だから、オープン戦で20打席ノーヒットとなったあと星野に「4番バッターは根本的に検討し直さなければいけないのではないか」ともちかけた。その時の星野の返事はノーである。それが今、星野の方が悩んでいる。

 開幕7連勝と毎日の結果は華々しいが、アリアスの状態は芳しくない。開幕戦には貴重な2ラン。5日のヤクルト戦では決勝犠飛でなんとか面目を保ったが、6日の試合ではまたノーヒット。チャンスに凡打を続けている。

 投手力がいいから連勝も出来、矢野、ホワイト、浜中、今岡、片岡らが打っているからそれほどのダメージになってはいないが、7試合で打ったのは3安打。半数を超える4試合にノーヒットなのだから今と、今後のことを考えると星野の頭は痛くなってくる。昨日も今日も「思い切って休ませるか」と考えながら、その考えをふりきってアリアスを代えないで使っている。

 ダイエーとのオープン戦の際、この2年間のオリックスでのアリアスを見ている王(監督)が、星野にこんな話をした。「彼は去年38本もホームランを打っているが、来日2年目の去年あたりから日本のピッチャーへの対応力も身に付けてきたんだな。変化球にも強くなって、ライト方向へ軽くもっていくバッティングだって出来るんだよな」。これはいわば、世界の王のお墨付きである。

 セ・リーグのピッチャーへの適応力ということもいえなくないが、問題は責任感が強く、殊にきまじめで考え込んでしまうタイプのバッターだけに、ボールの見極めが狂って結果が出ないからパニックに陥っているというのが真相だろう。だから星野も一度引っ込めて、頭の中や心持ちをクールダウンさせた方がよいかと思い悩んでいるわけである。

 コーチ陣の間からも、フロントの背広組の間からも「監督は自分の功を隠す人だ」という話を時々聞く。FAの片岡やホワイトやバルデスを獲ったのも星野の力、オーダーや投手起用の成功も星野の決断なのに「監督はみんなフロントやコーチの決定や判断だといって、自分はぶらぶら報道陣相手に楽してるんだというような顔でいる」と。

 開幕前にOBの藤村富美男さんと村山実さんの墓参りをしたのも発案はヘッドコーチの島野といっているが、あれも本当は監督からの申し出だったのだとも。決して自分の功を誇ったり、手柄話のようなことはいわないという、上に立つ者にとっての大事なあの「匿名の情熱」という要諦だ。

 新生阪神にとってようやくできかけてきた4番の軸をそう簡単に動かしてよいものか。しかしひと試合、ひと試合、チームにとって本当にこれでよいのか。自分の功も語れないが、自分の苦悩や辛抱も容易に口にはできないのもまた監督の立場というものだ。監督としての「重大な決断」を胸の奥の奥に秘めて、7連勝をよそに星野の苦悩と辛抱とが続く。(敬称略)

 三浦勝男 1939年(昭14年)、神奈川県生まれ。明大卒。62年、日刊スポーツ新聞社入社。巨人、中日担当、野球部長、編集局長、役員などを経て、現日刊スポーツ新聞社顧問。現在は多方面で執筆活動中。星野監督とは中日入団以来、33年間の交友。



2002年4月7日付紙面掲載 


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