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やるべきこと終え…身も心も真っ白
運は天に任せる覚悟どうでもいいじゃん、と言われそうだが、開幕戦白星を飾った星野のホテルの部屋も真っ白。ドア、壁、床、テーブル、机、イス、ソファー、花瓶、カーテン全部シロ、しろ、白。白い額縁の中の絵も白銀が渦を巻いている抽象画で、なんと本人が着ているシャツも純白の春ものだ。 そして寝起きの頭のなかも少し“白い”ところがあったのではないか。スポーツ各紙のペナントレース順位予想をながめているうちにはっとしたらしい。「どうもうちを最下位につけている記者や評論家が多いなあと思っていたら、長年の習慣でおれはうっかりして、中日の順位予想にばっかり目を走らせていたんだよなあ」 いかん、いかんという顔をしながら星野は手近にあった次の新聞をとって読んでいく。それは一般紙で目に止まったのは、やや活気を失っている日本のプロ野球界への提言を述べた社説欄だ。努力や工夫の余地はまだまだあるとして、最後は「4年連続最下位だった阪神がオープン戦では“首位”をキープした。新たな熱気が生まれる芽がないわけではない」と結んであったから、星野としては開幕の朝、少しも悪い気がしない。 しかしよくよく見てみると、それはどこにまぎれ込んでいたものか昨日付の新聞だった。ここ数日もこの日も星野はいたって落ち着いて見えた。昔から勝負の世界は運否天賦(うんぷてんぷ)だという。運、不運は天が決める。運は天に任せるという意味だ。「やることはやったんだ。あとはなるようになる」と腹はできていた。人間は予想のできない怖れと喜びとを未来に賭けて生きていくものだ。やるべきことをやったらどんな吉凶も甘受して生きていくほかはない。そんな覚悟はとうにできていた。白ずくめの部屋で白いシャツを着ていたのも縁起をかついだものではなかったろう。 しかし、ユニホームに着替えて部屋を出るまで甲子園での高校野球のテレビを見ながら、2度も「高校生の野球はいいなあ。みんな心から楽しんで野球をやっているもの」というようなことを口にした。裏返せば数時間後にスタートする自分たちの野球は命がけの戦いだ、という意味だろう。 プロ野球の監督として年々風格も貫録も身に付けてきている星野だが、ポーカーフェースを装いながらも人に聞かれるのではないかと思うくらい、試合が始まるとドキドキしっぱなし。いや、それどころか場面によっては心臓がバクバク音をたてているのだといって、よく笑っている。この日の巨人との開幕戦はまさにそんな試合だったと思う。 智者は惑わず、仁者は憂えず、そして勇者は恐れずと論語にいうが、残り139試合も英語のスラングでいえばまさにG・O・K(ゴッド・オンリー・ノウズ、神のみぞ知る)である。この4カ月ほどで、星野の前髪の白い部分がまた少し大きくなっている。 (敬称略)
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2002年3月31日付紙面掲載
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