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「燃える魂」鎮めるため睡眠薬

星野の挑戦

昨年は公式戦中だけ服用…

 星野のタバコの本数が日ごとに増えている。中日監督時代、かつては箱のデザインのドラゴンズ・ブルーがお気に入りで「パーラメント」を吸っていたが、紙巻きタバコは本数が増えがちになるので数年前からは「ミニシガー」に換えて、去年までは確か1日5、6本だった。1本200円以上もする輸入ものだ。

 それが阪神にきてからは、キャンプのころから倍の本数になり、オープン戦のあたりからはもう3倍の本数に増えて、20本入りの1箱が1日であらかた空になってしまう。こんなことを書くと星野はいい顔をしないのだが、やはり内面の緊張感は本番の時期が近づくにつれて、ぐんぐん増してきているのではないか。そんな気がする。

 「男の深層心理学」によると、ヒゲを生やすのは男の虚勢、つまり強がりだ。酒は自己とうかい、つまりは自分をごまかしたり隠したりすることだ。そしてタバコは神経過敏のあかし。無用な緊張感を抑えて、理性を安定させようとする行為なのだという。今、球界でもっとも注目を集めている指揮官の心の奥底を測る、これは1つのバロメーターでもあろうか。

 これを書くとまた星野ににらまれてしまうのだが、中日時代からの昨年まではシーズン中、つまり公式戦の間にしか飲まなかった睡眠薬を、星野はもう1カ月も前から毎晩、寝る前に服用している。そうと知って一瞬、わたしも「えっ、もう今から薬を飲んで寝ているのか」と驚いたのだが、大きな期待感とその使命感とに全身60億の細胞が赫々(かっかく)と動いている今、これも我と我が身を鎮(しず)めるための手段なのだろうと思う。

 今年球団が移動日用の正装として全員に新調したそろいの黒いスーツを着て、星野はさっそうと東京に向かったが、そのバッグには花粉症対策の薬や常用の胃薬と一緒に、特別に調合してもらっている睡眠薬も20日分ほど収まっているはずだ。

 ハードスケジュールのせいか、腰の疲労からか、最近左足がしびれたりするので毎晩1時間のマッサージが日課になった。寝不足であくびばっかり出て困る朝もある。しかし、それでも「不思議なもので、ユニホームに着替えた途端、身も心もピーンとなるんだよな」と言って星野は笑う。さぁ、あと1日で本番だ。

 大阪を出る前の晩は誘われてクラブに行って、ひさしぶりに気分をほぐした。2日連続で焼肉屋に行ったらひさしぶりに、アッチの方もピンピンになったらしい。いろいろと細かいことをいえば体調についても多少の心配はあるのだが、星野の気構えとスタミナの方はもうバッチリのようだ。

 三浦勝男 1939年(昭14年)、神奈川県生まれ。明大卒。62年、日刊スポーツ新聞社入社。巨人、中日担当、野球部長、編集局長、役員などを経て、現日刊スポーツ新聞社顧問。現在は多方面で執筆活動中。星野監督とは中日入団以来、33年間の交友。



2002年3月29日付紙面掲載 


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