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ホテルの部屋で盗聴器チェック

星野の挑戦

油断大敵…もう始まっている戦い

 星野が常宿にしているホテルの部屋は1泊8万円のスイートだが、実際にその部屋に入ったらもう「スイートルーム」などという甘い先入観念は吹き飛んでしまう。2間あってもそう広くはなく、寝室はダブルベッドの周りで大きなトランクが2つ3つ、パカパカ口を開けて荷物をはみ出さんばかりだし、ハンガーにかかった冬物の衣類がズラーリ。もうそれで室内はきっちきちだ。

 居間の方もテーブルと机の上は新聞、雑誌、色紙やノート、名刺ケースや茶菓子類のヤマ。窓際と入り口の周辺を除いて、これまた衣類や手荷物がぎっしり床を占めているから、いささか足の踏み場もないほどである。

 ドアをノックする音、と同時にプルプルプルとケータイも鳴る。帰ってきてはシャワーを浴びて、素早く着替えてまたすぐに外出の準備に入る。服やコート類の約50着はほとんどが去年からの冬物で、春ものを買いそろえに行くにもその時間がないらしい。入り口の床に並べた革靴は3足。「いつも同じ靴を履いて出なけりゃあならん。名古屋の家から運ばせるか、それとも買うか」といっている間にもう次の出先への時間が迫っている。

 唯一のうるおいは暖炉の上の小間物類の間に見える1枚の写真−−嫁いでいる2人の娘さんとお孫さん(1歳7カ月の女児)が並んで写っているキャビネだけで、星野の「楽屋裏」は多忙な人気者のそれらしく、雑然としていささか殺気立っている。この日もエレベーターの前まで行ってから、シャワーのあとタオルでふいたきり、クシを入れてなかったくしゃくしゃの髪に気づいて、あわてて部屋に戻ったりした。

 いってらっしゃい、お帰りなさいの声もない単身赴任者の生活だが、いつも大勢の人に注目され、グラウンドを離れてもスケジュールでいっぱいの忙しい毎日だから、さびしいとも疲れたとも思わないのだろう。この日もわたしが単独で話ができたのはたったの4分間だった。

 しかしその星野がその楽屋裏で、毎日しっかりチェックしていることがある。部屋の中、テーブル下、調度品の裏。あるいは部屋からエレベーターまでの通路の周り、壁の額ブチあたりにも目を配り、時には手を伸ばして盗聴器や隠しカメラの有無などを確かめていくのである。

 「人は“まさか”っていうけど、このご時世だからねえ。なにがあるか、なにをされるかわからんからね。その“まさか”が怖いんだ」と笑いながら、遊び半分でやっていることなのだが、油断もスキもなく、このとき星野は“探知機”と化している。

 選手やコーチがうっかりタクシーの中でしゃべった話がすぐにマスコミや世間に広まる例もたくさんあったそうだし、星野自身今も週刊誌とのトラブルなどを含めて、いくつかの「敵」を抱えている時だ。去年も球界のあり方について批判の矢を放った相手から報復の手段だろう。なにげない私生活の数カットを週刊誌にリークされたりもした。ユニホームを脱いでいる間も、星野ならではの目配り、気配り、油断大敵、火の用心だ。

 開幕まであと2日だが、楽屋裏で星野はもう戦場に立っているように見えた。

 三浦勝男 1939年(昭14年)、神奈川県生まれ。明大卒。62年、日刊スポーツ新聞社入社。巨人、中日担当、野球部長、編集局長、役員などを経て、現日刊スポーツ新聞社顧問。現在は多方面で執筆活動中。星野監督とは中日入団以来、33年間の交友。



2002年3月28日付紙面掲載 


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