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損得離れた江戸っ子気質

星野の挑戦

金くれる「激励会」に激怒

 阪神の関連会社の人やABC放送の人たちが集まるバーで昨夜は面白い話を聞いた。昨夜はたまたま西梅田のホテルで球団主催の壮行会があったのだが、本当はもうひとつ大阪財界あげての「星野激励会」が開かれる予定だったのに、この会のやり方に星野が激怒して大パーティーはお流れになったというのである。

 今や関西の星。新しい大阪の顔としてときめく星野をいっちょう開幕前に呼んで励ましてやるか、という計画が大阪を代表する著名企業や団体のトップの間で持ち上がったのも自然の成り行きだ。そこから星野の大後援会組織を作るかという可能性も秘めて、準備は着々と進んでいたらしい。ところがその会の内容を聞いて、当の星野が怒ってしまったというのだ。

 会費はひとり1万5000円。それで400人くらい集めて、壇上に呼んであいさつをさせる星野には20万円くらいやって、それで採算もとれるし格好もつくだろう。パーティーをやるホテルの方も喜ぶよ。幹事役の企業の社長のこの話に星野のへそが横を向いてしまったらしい。

 「それは激励会なのか、遊び半分のイベントなのか。ウチの久万オーナーもそんなプランは知らんといっている。やってくださるというのはありがたいが、筋道はいったいどうなっとるんだ。おれを呼んで20万くらい握らせるというのはどういう考えによるんだ。芸者の花代か、タレントのギャラか。おれはプロ野球の監督で、芸者じゃあないんだぞ」

 星野はやるねえ、開幕前に地元の財界とトラブった。いやあ、浪速商人の洗礼を受けたに過ぎないんだよ。それでもさすがは星野だわい。気骨がありまっせ、とバーの一角は随分と盛り上がった。

 この類いの話は名古屋での中日監督時代にも何度かあったのだが、母親の敏子さんが代々続く東京・浅草の紙問屋のひとり娘だったのだから、星野の体半分は江戸っ子だ。その星野の江戸っ子気質がまたひょいと頭をもたげたのだという、まあその程度の話だと思っていていいだろう。

 しかし人は欲望と信念に生きるものだが、ここ数十年の日本人は欲望ばっかり。あまりにも人としての信念をわきに押しのけて生きてきた感もある。損得を離れたこうした気骨を示す話や正義感に飛んだ話があんまりないご時世だから、バーのサラリーマンたちの多少の拍手喝さいにもつながるのではないか。

 人の生きざまはすべて、日常の言動やその眼(まなこ)にちゃんと表れる。水割りのグラスを揺すりながらふと、星野仙一という男の澄んだまなざしを脳裏に思い浮かべてみたりするわたしなのであった。

 三浦勝男 1939年(昭14年)、神奈川県生まれ。明大卒。62年、日刊スポーツ新聞社入社。巨人、中日担当、野球部長、編集局長、役員などを経て、現日刊スポーツ新聞社顧問。現在は多方面で執筆活動中。星野監督とは中日入団以来、33年間の交友。



2002年3月27日付紙面掲載 


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