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阪神 12―3 巨人 (5月12日)


2000年の戦い
井関真


連載目次

したたか心理戦でG粉砕

”耳打ち”で相手投手を幻惑

 長嶋巨人はいったい何の幻影を見たのだろうか。5―3、阪神が2点リードで迎えた8回だった。1死後、代打和田が遊撃内野安打を飛ばす。一塁側ベンチから野村監督が出て来て、代走高波と次の打者田中を呼び寄せる。巨人戦では恒例になった“作戦タイム”だ。

 マウンドの野村は明らかに阪神の足を使った攻めを警戒した。田中に4球を投げる間に、4度のけん制球。けん制が得手でない野村の投球リズムの狂いを待って4球目がエンドランだった。田中の投ゴロを処理した野村の一塁送球は大きくそれてしまった。さらに代打広沢にも監督が耳打ちする。ストライクが入らずに満塁。今度は坪井が初球を右前にたたいた。

 通訳を介して何事かアドバイスされたハートキーが適時打、そして新庄、大豊が本塁打…。この8回だけで一挙7点が入って試合は完全に決まった。15年ぶりの対巨人戦5連勝は、12―3の大差で阪神が巨人をねじ伏せたのだった。

 それにしても、野村はいったい何に脅えたのか。あの8回の場面、作戦はせいぜい盗塁かエンドラン程度ではないか。それが野村監督のやたら耳打ちを繰り返す姿に、まるで催眠術にでもかかったように虚ろな風情で打ち込まれていった。純真な長嶋巨人をしたたかな心理戦で野村阪神が粉々に打ち砕いてしまった。

 そう言えば2回のガルベスKOも、そんな阪神らしさがのぞかれた攻めだった。大豊の死球から始まった攻略。昨年2勝4敗、防御率1・86に抑え込まれた相手に対して1死後、星野修の6球目に走者が大豊にかかわらずエンドランを仕掛けている(ファウル)。このイヤらしい作戦が、ガルベスをイラ立たせて、2死からの4連打に結び付けたのだった。

 もちろん、ガルベス攻略は作戦だけで実現できたものではない。阪神の打者が示した球に食らい付く姿勢が大きな武器になったのだ。大豊に死球を与えてからKOされるまでにガルベスが投げたのは29球。その内、ファウルが実に10球、空振りはわずか1つだけであった。決め球をファウルされ続けることによって、ガルベスは自滅への道をたどって行った。

 力通りの結果にならない野球の不可思議さの裏にひそむ心理戦…。目に見える部分でも、見えない部分でも5万2000人の観客をたん能させた巨人戦であった。

(編集委員)


2000年5月13日付紙面掲載 
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